| 名称 | ヒマー文化地域 |
|---|---|
| 国 |
サウジアラビア |
| 登録区分 | 世界文化遺産 |
| 登録年 |
2021年に開催延期された第44回世界遺産委員会拡大会合において、サウジアラビアの「ヒマー文化地域」が世界文化遺産として登録されました。
ヒマー文化地域

「ヒマー文化地域(ヒマーの岩絵群)」は、サウジアラビア南西部の乾燥した山岳地帯に位置する、世界有数の壮大な「岩の上の歴史図書館」です。
古代、アラビア半島を南北に交差していた主要なキャラバン(交易らくだ隊)のルート上にあり、数千年にわたって旅人、商人、そして兵士たちがこの地を行き交いました。
ヒマー文化地域は、約7000年前にわたる人間の営みや環境の変化を今に伝える貴重な遺跡群です。岩肌には狩りの様子、野生動物、植物、当時の人々の暮らしを描いた無数の岩絵(ペトログリフ)や文字が刻まれており、その多くが奇跡的に良好な状態で保存されています。
ヒマーは単なるアートのギャラリーではなく、厳しい砂漠を旅する人々にとって「なくてはならないオアシス」でした。乾燥した砂漠地帯を進むキャラバンにとって、3000年以上途絶えることなく水を湧き出し続ける「ビール・ヒマーの井戸」は、文字通り生命線だったのです。
ここで喉を潤した旅人や軍勢は、立ち寄った証として、あるいは旅の安全を祈願して、周囲の岩山に自らの言葉や絵を刻み残しました。古い文字の上から後世の文字が重ねて刻まれている場所もあり、何世代にもわたって砂漠を行き交った人々の息遣いがリアルに伝わってきます。
サウジアラビアには、このヒマーのほかにも世界的に有名な岩絵遺跡が存在します。例えば、北部にある世界遺産「サウジアラビアのハーイル地方の岩絵」もそのひとつです。ジュッバなどが新石器時代を中心とした非常に古い狩猟社会や気候変動の様子を色濃く残しているのに対し、ヒマーは文字の発達やシルクロードにもつながる交易ルートとしての歴史的役割が強く反映されている点が大きな特徴です。
また、同じアラビア半島の交易ルート上の遺跡として有名なヨルダンの世界遺産「ペトラ」をつないでいたのも、こうした砂漠のキャラバンロードでした。ナバテア人が築いたペトラの壮大な彫刻寺院と、ヒマーの岩肌に刻まれたナバテア文字や岩絵は、かつてアラビア半島全体を覆っていた広大な交易ネットワークの存在を物語っています。
過酷な自然環境と、地元ベドゥイン(遊牧民)の人々によって何世代にもわたり大切に守られてきたヒマー文化地域。一歩足を踏み入れれば、何千年も前にこの場所で喉を潤し、岩に文字を刻んだ古代の旅人と同じ景色を感じることができます。

