セーヌ川の流れに沿って、パリの街は歴史を紡いできた。古代から人々が行き交い、文化と芸術が花開いたこの場所には、数え切れない物語が眠っている。私はある秋の午後、その物語をたどる旅に出た。
最初に足を踏み入れたのは、ノートルダム大聖堂。セーヌ川の中州、シテ島にそびえ立つこの聖堂は、中世ゴシック建築の傑作だ。尖塔の跡がまだ修復中であるにもかかわらず、その荘厳な姿は今も変わらず人々を魅了している。ステンドグラスに映る陽の光が大理石の床に色とりどりの影を落とし、時の流れを超えた静けさが広がっていた。
次に向かったのは、ルーヴル美術館。かつて王宮であったこの建物は、今や世界最大級の美術館として名を馳せている。モナ・リザの微笑みを前にして、私はふと考えた。数世紀にわたり、この絵を見つめてきた人々も、セーヌの流れとともに時を渡っていったのだろう。
セーヌ川にかかる橋のひとつ、ポン・デザールを歩く。かつて恋人たちが南京錠をかけて愛を誓ったこの橋からは、エッフェル塔が遠くに望めた。川面に映るその姿は、まるで時間の波に揺れる幻のようだった。
夕暮れ時、私はオルセー美術館へと向かった。印象派の名作が並ぶこの館には、かつて駅舎であった名残が今も漂う。モネやルノワールの描いた光が、まるでセーヌの水面に反射する夕日そのもののように、やわらかく私を包み込んだ。
最後に訪れたのは、エッフェル塔のふもと、シャン・ド・マルス公園。夜の帳が降りると、塔が黄金の光をまとい、セーヌの流れにその輝きを映し出した。私はその光景を眺めながら、この川が育んだ歴史と芸術の重みを改めて感じた。
セーヌ河岸の旅は終わりを迎えたが、その記憶はいつまでも私の心の中で輝き続けることだろう。