ムザブの谷
ムザブは、アルジェリア中部ガルダイア県、アルジェの南600kmにある標高300mから800mの岩だらけの高原です。新石器時代以降、この地方には洞穴で暮らす人々が住んでおり、歴史上、ムザブには25の町が現れ、消えていったとされています。
行政や商業の中心地ガルダイアを筆頭に5つの街を造ったのは、ベルベル人の一部族、ムダブ族でした。コーランを厳格に解釈し、「イスラム教徒の清教徒」と言われた彼らは、イスラム世界では異端とされました。主流派から迫害を受けた彼らは信仰の場を求め、流浪の末に11世紀初め、この地に辿り着いたのです。
1~3月の雨季にもほとんど雨が降らない不毛で岩だらけの涸れ谷を、彼らは少しずつオアシスへと変えていったのです。異民族や主流派の襲撃に備えて、要塞を築き、その中心にモスクを建設。ただ、礼拝の場が他の建物より華やかであってはならないとの考えから、日干し煉瓦の質素な建物とされました。
住宅はモスクの周囲に同心円状に建てられ、家族数によって大きさの差はあるものの、平等の精神から、建材やデザインを統一。そしてどの家からもモスクのミナレットが見えるように設計されています。
18世紀以降には、ムザブは、ナツメヤシ、塩、象牙、武器、奴隷などを取引していたサハラ交易のキャラバンの寄留地となり、その後はフランス植民地となっています。
パステルカラーで彩られた真四角の家々と、美しい街並みが残り、フランスの芸術家にも影響を与えると言われつつも、ムザブ人は1000年の間、伝統的な暮らしを守り続けています。