2016年トルコ・イスタンブルで開催された第40回世界遺産委員会において、日本を含む、フランス(代表推薦国)、ドイツ、ベルギー、スイス、アルゼンチン、インドの計7か国が共同推薦した「ル・コルビュジエの建築作品―近代建築運動への顕著な貢献―」が世界文化遺産として新規登録されました。
ル・コルビュジエの建築作品―近代建築運動への顕著な貢献―
「ル・コルビュジエの建築作品―近代建築運動への顕著な貢献―」は、2009年、2011年と登録申請していましたが、いずれも登録には至らず、今回が3度目の登録申請でした。
本遺産は、現在登録されている世界遺産にはない、大陸を跨いだ遺産「トランスコンチネンタル・サイト」として注目されていた遺産です。
近代建築三大巨匠の一人「ル・コルビュジエ」
「ル・コルビュジエの建築作品―近代建築運動への顕著な貢献―」は、登録名からも分かるように近代建築三大巨匠の一人「ル・コルビュジエ」の建築作品群です。
ル・コルビュジエは、スイスのラ・ショー=ド=フォン(2009年「ラ・ショー=ド=フォンとル・ロックル、時計製造業の都市計画」として世界遺産に登録)で生まれ、フランスで活躍した建築家で、現代の建築の基礎を築いたとされる人物です。
現在では当たり前となった「ドミノ・システム」を考案したのも、ル・コルビュジエです。ドミノ・システムとは、鉄筋コンクリートの構造システムで、鉄筋コンクリートの床と床を支えるための最小限の柱、各階へ移動するための階段を要素とした建築方法です。それまで建物の床を支えていた壁を無くしたことにより、自由な平面をつくり上げることに成功しました。
「ル・コルビュジエの建築作品」主要スポット
今回、世界遺産として登録された物件は、全部で17件。数あるル・コルビュジエの作品の中でも傑作といわれる作品ばかりです。作品の素晴らしさは言うまでもありませんが、今回の登録では「近代建築運動への貢献」に主眼が置かれています。この作品群で近代建築の発展段階を辿るということが登録理由です。
ル・コルビュジエの作品は、合理的かつ機能的なデザインで、建築だけでなく都市計画においても大きな影響を与えたといわれています。日本の世界遺産登録物件は、東京都台東区にある国立西洋美術館本館です。ぜひ、一度足を運ばれてはいかがでしょうか?
- 国立西洋美術館本館(日本)
- ラ・ロッシュ=ジャンヌレ邸(フランス)
- ユニテ・ダビタシオン(マルセイユ,フランス)
- ラ・トゥーレットの修道院(フランス)
- サヴォア邸と庭師小屋(フランス)
- ペサックの集合住宅(フランス)
- カップ・マルタンの休暇小屋(フランス)
- ナンジェセール・エ・コリ通りのアパート(フランス)
- ロンシャン礼拝堂(フランス)
- サン・ディエの工場(フランス)
- フィルミニのレクリエーション・センター(フランス)
- レマン湖畔の小さな家(スイス)
- イムーブル・クラルテ(スイス)
- ヴァイセンホフ=ジードルングの住宅群(ドイツ)
- ギエット邸(ベルギー)
- クルチェット邸(アルゼンチン)
- チャンディガールのキャピトル・コンプレックス(インド)
国立西洋美術館本館(日本)
国立西洋美術館本館は、建築家のル・コルビュジエが設計した日本で唯一の建造物で、日本の20件目の世界遺産です。
国立西洋美術館設立20周年の記念すべき年(1979年)、国立西洋美術館に新館が建設されます。そのため、ル・コルビュジエ設計の建物は、本館と呼ばれるようになりました。国立西洋美術館は、1階がピロティ(柱だけで構成される壁のない空間)となっており、1階の円柱が2階を支えている構造です。
ラ・ロッシュ=ジャンヌレ邸(フランス)
フランス・パリにあるラ・ロッシュ=ジャンヌレ邸は1925に建設された邸宅でル・コルビュジエ作品の中でも初期のもので、彼が構想した5原則・ピロティ、屋上庭園、水平連続窓、自由な平面構成、自由なファサードが全て揃う住宅です。
ラ・ロッシュ=ジャンヌレ邸ですが、外見は1つの建物に見えますが、実際には、ラ・ロッシュ邸とジャンヌレ邸の2つの邸宅が入っています。
ユニテ・ダビタシオン(マルセイユ,フランス)
ユニテ・ダビタシオンとは、ル・コルビュジエが設計した集合住宅で、フランス語で「住居の統一体」と「住居の単位」という二つの意味を持っています。ユニテ・ダビタシオンは、マルセイユ以外にもありますが、ユニテ・ダビタシオンといった場合、最初に建設されたフランス・マルセイユのユニテ・ダビタシオンを指します。マルセイユのユニテ・ダビタシオンは、18階建てで全337戸、最大約1600人が暮らせる大規模な集合住宅です。
ラ・トゥーレットの修道院(フランス)
フランス・リヨン近郊にあるラ・トゥーレット修道院は、ドミニコ会の依頼により、1956年着工、1960年に完成しました。同じくル・コルビュジエ建築作品として世界遺産に登録されたロンシャンの礼拝堂と共に、彼の後期の作品の中でも傑作と称されています。ラ・トゥーレット修道院は、丘の斜面に沿うように立っており、斜面に柱を立て、建物は、直線的で荒々しく、打ちっ放しのコンクリートがより一層重厚感を引き立てています。
サヴォア邸と庭師小屋(フランス)
ペサックの集合住宅(フランス)
カップ・マルタンの休暇小屋(フランス)
カップ・マルタンの休暇小屋は、地中海を臨むフランスのロクブリュヌ=カップ=マルタンにあり、ル・コルビュジエの妻であるイヴォンヌのために建てられたものでした。ル・コルビュジエは、地元のレストラン・オーナーであるトマ・ルビュタートの依頼を受け、いくつかの建物を建て、その引き換えに、レストランに隣接する土地を提供され、休暇小屋を建てたそうです。
ナンジェセール・エ・コリ通りのアパート(フランス)
ロンシャン礼拝堂(フランス)
サン・ディエの工場(フランス)
サン・ディエ工場は、フランス北部の都市サン=ディエ=デ=ヴォージュにあります。1946年から1951年に再建された工場でメリヤスなどの織物工場で、工場の持ち主であるジャン・ジャック・デュヴァルの名をとって、ユジーヌ・デュヴァルとも呼ばれています。
フィルミニのレクリエーション・センター(フランス)
レマン湖畔の小さな家(スイス)
レマン湖畔の小さな家は、スイス・レマン湖畔にあります。その名の通り「小さな家」で、両親のために、ル・コルビュジエの故郷であるラ・ショー=ド=フォンより暖かなレマン湖畔に建てた家です。1923~24年に掛けて建設された小さな家は、窓は横長となっており、それにより大胆な採光と窓から見えるレマン湖やアルプス山脈が借景として取り入れられ、また可動式の壁や家具によって簡単にレイアウトが変えられるなど狭いながらも快適に暮らせるように様々な工夫がされています。
イムーブル・クラルテ(スイス)
スイス・ジュネーブにあるイムーブル・クラルテは、ル・コルビュジエが初めて手掛けた集合住宅で、1930年から32年にかけて建設されました。金属製造業者であった依頼主エドモン・ヴァネールの協力もあり、イムーブル・クラルテは、スチーム・フレーム構造となっています。
ヴァイセンホフ=ジードルングの住宅群(ドイツ)
ヴァイセンホフ=ジードルングの住宅群は、ドイツ・シュトゥットガルトにあります。1927年にドイツで開催された「ジードルングの住宅展」に出展された作品で、ル・コルビュジエの「近代建築の五原則」の要素が反映された住宅となっています。
ギエット邸(ベルギー)
ギエット邸は、ベルギー・アルトウェルペン(アントワープ)にあります。画家ルネ・ギエットの依頼で、1926年から1927年にかけて建設された住宅兼アトリエです。ギエット邸は、狭い敷地に建てられた3階建ての箱型住宅で、コルビュジエ構想のシトロアン住宅に比較的近い状態で建設された住宅です。シトロアンとは、コルビュジエが考案した安くて、大量に生産が可能な白い箱型住宅で、フランスの大衆車「シトロエン」が名前の由来となっています。
クルチェット邸(アルゼンチン)
クルチェット邸は、アルゼンチンの首都ブエノスアイレスから南東へ約50kmの位置にある都市ラ・プラタにあります。邸宅の依頼主は、ペドロ・ドミンゴ・クルチェット医師で、住居と診療所を兼ねた建物となっています。クルチェット邸は、日除け格子(ブリーズ・ソレイユ)が工夫されており、アルゼンチンの暑い気候に対応できるような造りとなっています。
チャンディガールのキャピトル・コンプレックス(インド)
チャンディガールは、インド北部のパンジャブ州にある都市で、1950年代にル・コルビュジエが都市計画を実現させた街です。キャピトル・コンプレックスとは、ル・コルビュジエが設計した行政機関やモニュメントが集まるエリアを指し、高等裁判所、議会棟、行政庁舎、オープン・ハンド・モニュメント、影の塔と呼ばれる建造物があります。高等裁判所や議会棟など、現在も建設当初と同じように使用されている建物もあるため、議会中などは、中に入ることは勿論建物に近づくことも許されないそうです。
すごいためになります。