ギリシャ・ペロポネソス半島のバッサイ山、標高1160mの地点に位置するアポロ・エピクリオス神殿。「バッサイ」というのは「岩々の小さな谷間」を意味し、「アポロ・エピクリオス」には「加護をくださったアポロ」との意味があります。
この神殿は何世紀もの長い間忘れ去られ、1765年に発見されました。1975年に崩壊の危機が迫りましたが、修復工事が行われています。
この神殿が造られたのは、紀元前5世紀半ばのこと。そんな昔に造られた神殿が残っているのも驚きですが、保存状態も良好なことで知られます。
1986年、バッサイのアポロ・エピクリオス神殿という名称でギリシャの世界遺産に登録されました。
山奥にひっそりと佇むアポロ・エピクリオス神殿
紀元前420年ころにペストの流行を免れた麓のフィガリア住民が、癒しと太陽の神アポロンに感謝して建てた神殿です。30年の歳月をかけて造られたといわれています。
この神殿を作ったのはパルテノン神殿を造った建築家イクティノスです。古い神殿の上に建てられたもので、保存状態がよいことでも知られています。
アポロ・エピクリオス神殿の構造
ドリア式・イオニア式・コリント式それぞれのスタイルが随所に見られ、他の神殿とは異なる文化を残していることから、古代建築技術の研究者たちから注目を集めています。
長方形をした神殿は、アルカディア地方で産出される灰色の石灰岩が使われています。土台となる床は38.3m×14.5mで少し小さめです。神殿はプロナオス(入口)、ナオス(本殿)、オピストドモスの3つに分けて構成されています。
ナオス(本殿)にはアポロ神像があったと考えられています。このアポロ神像に光を当てる開口部が真東に造られ、通常の神殿は入口が西側にありますが、南北方向に広がる形で、北向きに入口がある構造も必見です。
内部にはすっきりとしたドリア式の柱が正面の6本に対し側面は12~15本あり、エンタシスというギリシャ発祥の先が徐々に細くなる建築様式が採用されています。イオニア式はポーチを支え、コリント式は内部本殿に用いられています。南端にある土台に残存する、コリント式の1本の柱頭は現存しているものの中で最古のものです。
特に内部は優美な雰囲気に包まれています。荒々しいケンタウロスたちと戦うラピテス族の姿や、アマゾネス(女戦士)の闘うギリシャ人の姿が描かれており、訪れる人を魅了しています。これらはイオニア式によって描かれています。(現在は大英博物館内に展示されています。)
「バッサイのアポロ・エピクリオス神殿」のまとめ
パウサニアスはこの神殿を「石の美しさと建設の調和によって、テゲアのアテナ神殿を除くすべての神殿を凌駕する」と述べています。
保存状態がかなりよいので、ギリシャ神殿の謎を推理しながらゆっくりと見学してみてはいかがでしょう?